澤 穂希 涙

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苦しい戦いだった。彼女たちにとってAFC女子アジアカップは思い描いていたものとは全く異なったものとなった。

5月30日、3位決定戦。そこが、なでしこジャパンが最後に立っていた場所である。

W杯の出場権、残る1枠の争奪戦。しかし、彼女たちが掲げてきた目標は初のアジア制覇だった。大会前から優勝候補に挙げられ、予選リーグでの内容も高い評価を受けていた。 グループAは日本、北朝鮮の2強が当然のように苦もなく勝ち抜けた。しかし、これがアドバンテージではなかったことが準決勝で証明されることになる。

グループBは中国、オーストラリア、韓国が初戦から決勝トーナメントへの生き残りをかけて熾烈なサバイバルを繰り広げていた。一瞬の隙が勝敗を決す。まず振り落とされたのは韓国だった。

日本の準決勝の相手は韓国を蹴落としたオーストラリア。この試合、オーストラリアは気迫に満ちていた。難しいサッカーはしない。それでも、彼女たちは力強く、乱れなかった。

一瞬の隙から守備を崩され、日本は先制ゴールを許す。今大会初のビハインド。焦りと暑さからバタついて、ボールをおさめられない。攻め続けるもゴールは遠かった。日本は敗れた。

要因は日本がトーナメント仕様に切り替われなかったこと、戦線離脱したFW大野の穴を埋められなかったこと、そして、多少の慢心があったことも否めないだろう。

「どうすればいいのか……」まさかの敗北後、澤穂希は退路のない戦いを前に行き詰まっていた。「山郷(のぞみ)と話そう」。共にチームを支えてきたベテランと話し合い、澤は自身のバランスを取り戻すとチームメイトともう一度向き合った。

翌日の練習では、見慣れない光景がそこかしこにあった。始まる前、選手だけで円陣を組んだ。セットプレイの練習時には、控えに回っていた山郷、福元(美穂)の両GKがスタメンのためにポジショニングの修正役を買って出た。気持ちはひとつだった。 決戦の日。いつも通り、国家斉唱で中国サポーターからブーイングを浴びる。この雰囲気がいつもなでしこたちを強くしてきた。全員で円陣を組む。「目の前の相手に負けるな!」最後の気合いを入れた。

前半18分の先制点は魂のこもったゴールだった。澤のシュートがバーを叩く。クリアボールに群がる両チーム。先にボールに触ったのが「どこにあたったのかわからない」と振り返るFW安藤梢だった。

後半、中国の気を削ぐ追加点は、セットプレイから。宮間あやのFKを澤がヘッドで合わせた。チームの勝利を決定づけた釜本邦茂氏の記録に並ぶ澤の代表75ゴール目。この2点が日本をW杯へ導いた。

もともと背中で仲間を引っ張るタイプの澤。北京五輪後、長く共に戦ってきた同年代が引退していった。自分の気持ちを代弁してくれていた仲間はもういない。言葉で伝える――その重要性は十分に理解している。

暗闇にひとり先に立ち、仲間のために明りを灯すべく道を探して歩いた。一時はその重責と孤独感に苦しんだ。最後にチームみんなで辿りついた答え。ベンチで仲間の笑顔に迎えられた澤の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。

Originally posted 2015-12-31 20:36:42.

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